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万葉集55番歌の謎


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いえども

2話は万葉集の漢字「雖(いえど-も)」がテーマです。

お差し支えなければお付き合いください。


「雖(いえど-も)」の 使 用 例: 56番歌

ある日、当サイト管理者は するべき仕事が早めに終わり 時間ができました。

何をして楽しもうと思案し、パソコンで万葉集を眺めることに。私は万葉集

を精読したことがなかったのですが、「つらつら椿」の歌に*出会って関心

を持ちました。54番歌、56番歌を念入りに見ていると56番歌に変な字を発見。   


56番歌: 河上乃 列々椿 都良々々尓
見安可受 巨勢能春野者
 
かわかみの つらつらつばき つらつらにみれどもあかず こせのはるのは


・・・「雖(いえど-も)」・・・はて?サイト管理者は人生で一度も「雖

(いえど-も)」という漢字を書いた記憶がないような・・・


ふぅ~む、何かしら。ワクワクしながら万葉集に漢字「雖(いえど-も)」が

何回出てくるかを数えてみることにしました。

まず、漢字「雖(いえど-も)」の出現回数 を 歌番号順 に おおざっぱに並べま

した。万葉集は全20巻。結果は下のような感じに。


1巻:8回、2巻:32回、3巻:21回、4巻:26回、5巻:2回、6巻:20回、

7巻:27回、8巻:17回、9巻:16回、10巻:34回、11巻:58回、12巻:31回、

13巻:25回、14巻:0回、15巻:0回、16巻:21回、17巻:2回、18巻:5回、

19巻:8回、20巻:0回。


この作業はパソコンを使えば一瞬。

あぁ、素敵・・・なんという便利な時代でしょう。次はやり方を変えてみま

しょうと、今度は出現回数の順に並べてみました。


0回:14巻、15巻、20巻

2回:5巻、17巻、

5回:18巻、

8回:1巻、19巻、

10回代:9巻-16回、8巻-17回

20回代:6巻-20回、 3巻・16巻-21回、 13巻-25回、4巻-26回、7巻-27回

30回代:12巻-31回、2巻-32回、10巻-34回

58回:11巻

・・・素敵だわ、これもパソコンを使うと一瞬。本当に便利な時代です。

次に「雖(いえど- も)」を含む歌の作者名を調べることに。


【第1巻】は全部で84作品。「雖(いえど-も)」は長歌を含む6首に合計

8回登場。56番歌の作者は春日蔵/倉首老(かすが の くら の おびとおゆ)。

残りの 長歌を含む5首は 柿本人麻呂(かきのもと の ひとまろ) の作品。


次は【第 2 巻】(85番歌-234番歌)へ。「雖(いえど-も)」は2巻に

32回登場。そのうち 柿本人麻呂の13首には (ざっと数えて) 21回登場し

ています。うぅむ・・・結構多い。

好奇心を刺激され、1巻と2巻の中から「雖(いえど-も)」を含む人麻呂

の作品を探して(目についた範囲で)番号を抜き出すことに。


柿本人麻呂と「雖(いえど-も)」:万葉集【 1巻・2巻 】


【 万葉集 1巻 】: 29番(作品中に3回)、30番、36番、37番、47番。

【 万葉集 2巻 】: 135番、138番(作品中に3回)、139番、140番、

         169番、196番、199番(2回)、202番、210番(2回)、

         211番、213番(4回)、214番、220番(2回)。


「雖(いえど-も)」は当時の歌(和歌・長歌/ちょうか・旋頭歌/せどうか など)

のスパイス的な漢字だったのでしょうか。パソコンで検索したところでは、

万葉集の原本は現存しないため写本で研究が行われているとのこと。写本が正確

に歌を詠んだ本人が意図した文字を伝えているか、サイト管理者にはわかりませ

んが、とりあえず漢字「雖(いえど-も)」を辞典で調べることに。


辞典で調べる

漢字「雖(いえど-も)」について要約します。

① 「ふるとり」部の9画。

音を表す「唯(い)」と「虫」から成り、字義は とかげに似た大きな虫。

( 参 照:角川 漢和中辞典 99版 )


② 解字:大きな とかげ の意味を表す。借りて「いえども」の意味に用いる。 

( 参 照:漢語林 3版 大修館書店 1989年 )


とかげに似た大きな「虫」?大きな「虫」とは何?柿本人麻呂が漢字の成り立

ちを意識せず用いたとは考えにくいですし・・・ふぅ~む。

「虫」も ぜひ調べてみたい。


「虫」を辞典で調べる

『 虫(チュウ・むし):昆虫類の総称。また動物 の総称 』

手元の*辞典に動物を五虫(ごちゅう)に分類する説がありました。出典は

*中国古典。虫には五種類あり、五種類の虫を導く存在は「鳳凰 / ほうおう」

「麒麟 / きりん 」「神亀 / しんき 」「蛟竜 / こうりょう 」「聖人 / せいじん 」

とのこと。その下に一般の虫がいて、人は裸虫(はだかむし、らちゅう)と言う

そうです。

なお、「虫」は象形文字で『*頭が大きくてグロテスクなマムシの形にかたどり、

まむしの意味を表す。さらに一般に爬虫類の意味も表す(漢語林)』

・・・これは意外。古代の中国には霊威(れいい)がある首長と、一般の虫

(動物)という考えがあったのでしょうか。

うぅ~む。これは もっと調べてみたい。日を改めて じっくりと。


*参照:漢語林 3版 大修館書店

参考:精選版 日本国語大辞典(「孔子家語」執轡)

参考: 裸虫|一般社団法人 数理暦学協会 (note.com)


56番歌 : 異 訳

漢字「雖(いえど-も)」と柿本人麻呂の話は ここで いったん保留にし、

2話の冒頭の56番歌へ話を戻してよいでしょうか。


56番歌: 河上乃 列々椿 都良々々尓 雖見安可受 巨勢能春野者 

かわかみの つらつらつばき つらつらに みれどもあかず こせのはるのは


今回は この歌に前回(「冬物語 2話」)と別の訳をつけてみます。


試訳 ①: 皮か実(かわかみ)のようですね、つらなる椿の葉かげに見

えるのは。椿が花咲く巨勢の春野は じっくり見ても見飽き(実開き)ま

せんが秋の椿は見飽き(実開き)ますね。


次に温泉を意識して訳してみます。


試訳 ②: 皮か実(かわかみ)のようですね、椿の葉かげに見えるのは。

花が咲く巨勢の春野とちがって秋の椿は見飽き(実開き)ますね。高貴な

方の供をする麗しい皆様、*あれは髪がつやつやになる椿油の原料となる

実ですよ。髪も面(つら)も手入れいたしましょう(いざ温泉へ)。  


(*註:河/かわ = 彼【か】は = あれは  →  河上の= あれは髪の

 *つらつらに:なめらかに、念入りに )


裸虫(はだかむし)は温泉へ・・・?


「雖(いえど-も)」は 裸虫(はだか むし = 人 )を連想させる文字。

・・・なんという温泉にむく言葉。また、辞典(漢語林)によると「虫」

の項目に「虫(むし)=むしあついさま」という解説もあります。

56番歌が詠まれたのは太政天皇(=持統天皇)の温泉旅行。美髪が自慢の

女官も多数いたことでしょう。 

・・・う~む、状況的には都合よくまとまるのですが、ここで終わっては

何かが足りない感じが・・・ほかに、もっと深い何かがあるのでは? 

改めて考えてみます。


なお、当サイトは歴史ファンタジーサイトです。アカデミックな用途には

ご利用いただけません。念のため。


(つづく)          宮廷歌人の謎へ


ご訪問をありがとうございました。

次回は柿本人麻呂(かきのもと の ひとまろ)と「雖(いえど-も)」の

続きです。


追伸:誤認やミス、引用先の不記載などがあると思います。お気づきの場合は

ご容赦の上、お差し支えなければサイト管理者へご教示いただけますと幸いです。

平素のご教示とご協力に感謝申し上げつつ。


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