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 漢 詩 ミステリー散歩 
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はじめに    

この漢詩には「二句目」が書かれていません。いくつかの
理由が推測されますが、当サイトでは「ナゾナゾ」ではないかと
考えました。


書の制作者について
 
この詩の制作者を示す二つの落款印(らっかんいん)があります。

(向かって右から左へ読んでいます)



印① 鎮西(ちんぜい)白文印(姓名印)
   (書体:隷書/れいしょ 篆書/てんしょ)





印 ② 釈居  文潮(ぶんちょう)
    朱文印(雅号印)
   (書体:隷書/れいしょ 篆書/てんしょ)



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制作者の詳細


詳細は、当サイトではよく分かりません。 制作者は、おそらく中国語が堪能な

(おそらく江戸時代の)「鎮西 /文潮」という人物で、石川丈山に心酔しているか、

誰かを もてなす立場だったのではないかと思います。

彼は漢詩の二句目、「常含太古情(常に含む太古の情)」を書きませんでした。

「常に含む」をわざと「含まない」ナゾナゾは話のタネになりそうです。

当時の石川丈山の漢詩の人気を証明しているように思います。

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写真の漢詩の詳細

題:「録韻萃選詩(ろくいんすいせんし)」    


① 山気殊人世 〇●〇〇● 平仄平平仄 shān・qì・shū・rén・shì
② 常 含 太古情 〇〇 ●● 〇 平平仄仄平 cháng・xián・tài・gǔ・qíng(欠落)
③ 四時雲樹色 ●〇〇●● 仄平平仄仄 sì・shí・yún・shù・sè
④一曲澗泉声  ●●●〇〇 仄仄仄平平 yì・qǔ・jiàn・quán・
shēng
⑤ 松風動萬壑 〇〇●●● 平平仄仄仄 sōng・fēng・dòng・wàn・hè
⑥夜泉和之鳴 ●〇●〇〇 仄平仄平平 yè・quán・hè・zhī・
míng
⑦抱琴座空山 ●〇●〇〇 仄平仄平平 bào・qín・zuò・kōng・shān
⑧寫欲入弦声 ●●●〇〇 仄仄仄平平 xiě・yù・rù・xián・
shēng
⑨上弦鸞靏舞 ●〇〇●● 仄平平仄仄 shàng・xián・luán・hè・wǔ
⑩下弦蛟龍驚 ●〇〇〇〇 仄平平平平 xià・xián・jiāo・lóng・
jīng
⑪奇音唯自識 〇〇〇●〇 平平平仄平 Qí・yīn・wéi・zì・shí
⑫世俗能為名 ●〇〇〇〇 仄平平平平 shì・sú・néng・wéi・
míng


およその意味  (*当サイトの超・意訳です)

山の雰囲気は俗世間とは違う

季節とともに色を変える雲や樹々 聞こえるのは谷あいの泉の音

松風は谷を渡り 夜の泉は風に合わせて鳴る

私は誰もいない山の中に 琴を抱いてすわる

はじまりの音を写し取るために

高い音は伝説の鳥が舞うように軽やかに

低い音は伝説の獣(けもの)が唸(うな)るように荘厳に

すばらしい音が自然と聞こえてくる
私が書かなかった二句目は 自然と分かるでしょう?)

世間の人々には分かるだろうか
さあ世の中の皆様 二句目はなあに?)

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石川丈山のオリジナルの漢詩

比較:五言律詩 題 幽居即事(ゆうきょそくじ)


写真の漢詩に使用された石川丈山のオリジナルの漢詩は以下です。

① 山気殊人世 〇●〇〇● 平仄平平仄     shān・qì・shū・rén・shì
② 常含太古情 〇〇 ●● 〇 平平仄仄平   cháng・xián・tài・gǔ・
qíng
③ 四時雲樹色 ●〇〇●● 仄平平仄仄    sì・shí・yún・shù・sè
④ 一曲澗泉声 ●●〇〇 平仄仄平平    ・qǔ・ jiàn ・quán ・
shēng
⑤ 雨湿鶯衣重 ●●〇〇●仄仄平平仄    yǔ ・tà ・yīng ・yī ・zhòng
⑥ 風暄蝶袖軽 〇〇●●〇 平平仄仄平   fēng・ xuān ・dié ・xiù ・
qīng
⑦ 為詩難至老 〇〇〇●●平平平仄仄    wéi ・shī ・suī・ zhì ・lǎo  
⑧ 未使鬼神驚 ●●●〇〇仄仄仄平平    wèi ・shǐ ・guǐ ・shén ・
jīng


およその意味 

山の雰囲気は俗世間とはことなり 太古の情をとどめている

季節とともに色を変える雲や樹々 聞こえるのは谷あいの泉の音
 
雨は鴬(うぐいす)の羽を重く濡らし 風は蝶の羽を軽く羽ばたかせる

私は老年になったが 自然界の精霊を感動させる詩はまだできない

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詩の形式

漢詩は中国語の音の高低がとても大切だそうです。石川丈山の漢詩の「音」
の基本スタイルは下です。 ( )は「平(ひょう)」「仄(そく)」が逆
でも許容される位置を示しています。

①(仄)仄平平仄   ②平平仄仄平 ③(平)平平仄仄 ④(仄)仄仄平平

⑤(仄)仄平平仄  ⑥平平仄仄平 ⑦(平)平平仄仄 ⑧(仄)仄仄平平


一方で、写真の漢詩は12句からなる五言古詩の「二句目」が何らかの事情で
書かれていません。古詩には厳密な「平仄(ひょうそく)」のルールは
ないそうですが、「韻(いん)」のルールのほかに句数を偶数でととのえる
約束があるそうです。写真の漢詩は二句目が書かれていない以外は、中国語
として心地よい音で構成されているそうです。


写真の漢詩の読みと平仄(ひょうそく)は、2017年3月に哲学の論文と格闘中
だった黄さんにご協力いただきました。情報交換には英語を用いました。日本
語訳および、なぞなぞという発想、内容全般の文責は当サイトです。誤認・
誤記があると思います。お気づきの場合はご容赦の上、お手数ですがご教示い
ただけますと幸いでございます。

 日本の里山 撮影:時間の博物館 日本の里山 撮影:時間の博物館 日本の里山 撮影:時間の博物館
日本の里山 撮影:時間の博物館 日本の里山 撮影:時間の博物館 日本の里山 撮影:時間の博物館
撮影:工房くらし月  日本の里山 (福岡県 大分県)


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終わりに

写真の漢詩の真実と詳細は「謎」ですが、派生的な関心が一つあります。

当サイトの地元(福岡県)に「亀井南溟(かめいなんめい)1743-1814」

という儒学者がいました。その人物の先生で「西溟(せいめい)(1676-1768)」

という黄檗宗(おうばくしゅう)の僧がいました。九州の詩文の発達に貢献

した人物として「儒林評(じゅりんひょう) 広瀬淡窓/著」に名前が挙げられて

います。(「西溟:大潮元皓(だいちょうげんこう)」については「淡窓全集

(中巻)儒林評P7の後ろから3行目~ /日田郡教育会 1926年、1927年)」で

ご覧いただけます。国立国会デジタルコレクションで検索できます)


南溟(1743-1814: 亀井南溟)福岡県」の師が「西溟(1676-1768)大潮元皓

(だいちょうげんこう)佐賀県」
なので、「文潮 西(詳細不明)」と「大
潮/ 

西
溟(1676-1768)佐賀県」との関係に興味があります。理由は名前が似ている

からです。単に似ているだけかもしれません。

中国由来の文化は、漢字も漢詩もとても奥が深いと思います。


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2015年夏 アジサイ谷にて。セッティングと撮影:時間の博物館
(時間の博物館 所蔵史料)

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