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皿と羊の謎


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異体字(いたいじ)

漢字の「
」と「」を間違えた話の続きです。


調べてみたところ、盖(ふた・ガイ)は 簡体中国語(簡体字)。日本では

2024年現在、ほぼ目にしません。現代の常用漢字には含まれていません。

手持ちの漢和辞典二冊にも記載がありません。


一方で蓋(ふた・ガイ)は繁体中国語(繁体字)。日本の改定常用漢字表

(2010年)に表示されています。使用例は「目蓋(まぶた)」など。


*盖は蓋の異体字(いたいじ)の一つ。異体字は「意味と読み」が同じ漢字。

ある漢字を誰かが書き間違えて、それが誤字(ごじ=まちがい)として消

されるのではなく逆に定着して生まれた漢字だとか。

(*参考:ウィクショナリー日本語版)


「蓋」と異体字・俗字の「盖」が 万葉集の中で どのように使われているか、

たまたま漢字を間違えたことで調べてしまったサイト管理者。

その結果を書きます。

お差し支えなければ お付き合いください。


【 詳 細】


(ふた・かさ・けだし)」

漢字の出現回数: *参照サイト(全4516首)では 6回。 

内訳:3巻 ・9巻・10巻 ・19巻に各 1 回。5巻に 2回。

(検索 :2024年2月8日13:00 参照:*万葉集Wikisource 1巻~20巻)


備考1: 参照サイトの原文は すべて漢字。

備考2: 参照サイトでは副詞「蓋(けだし)」の訓読み は平仮名。

備考3: カウント設定は変更されている可能性あり。


・・・はい?・・・目にもとまらぬ速さで退屈(たいくつ)になる・・・

この退屈さは続くのか・・・?ご安心ください。読み飛ばしをご希望の際は

 こちらが結論へのリンクです


この先も 少々 退屈かもしれません。どうぞ ご容赦ください。

では、テキパキと話を進めます。

結果を国会図書館デジタルライブラリー内の古典籍 万葉集清水浜臣 写本

と比較してみました。比較した結果を3パターンに分けて書きます。


パターン1 (写本に作品がないパターン)

【 5巻 : 800番  801番歌 】

内容 : 九州の修験道(しゅげんどう)関連の作品。

漢字「
」の場所 : 現代版「万葉集」の題詞(ことばがき)原文。

読み: けだし(副詞)。

備考  : 参考:古典籍 清水浜臣 写 万葉集 5巻コマ番号6/80

     800番は 詞書・作品とも該当作なし。

     801番は 作品は存在。該当する詞書なし。


次のパターン2・パターン3は清水浜臣 写本に作品があります。


パターン2 (和歌で「けだし / 副詞」として使用されるパターン)
 
【 9巻 10巻  :  1731番歌 2154番歌 】

内容: 和歌

漢字「
」の場所:現代版「万葉集」の和歌原文

読み : けだし(副詞)。

備考 :清水浜臣 写本 古典籍10巻コマ番号23/86に 現代版9巻1731番歌を確認。

    同11巻コマ番号93/103に 現代版10巻2154番歌を確認。

    古典籍の2首原文に現代版「万葉集」と一致する漢字「
」を確認。
 


パターン3 (和歌で「かさ / 名詞」として使用されるパターン)

【 3巻および19巻 : 240番歌 4204番歌 】

内容 :  和歌

漢字「
」の場所:現代版240番歌と4204番の和歌の訓読み。( 原文は

読み :  きぬがさ  ( 名詞 )


備考1 : 清水浜臣 写本 古典籍3巻コマ番号6/131に 現代版3巻240番歌を確認。

     古典籍 歌原本に漢字【
】を確認。

     (現代版も漢字【
】)


備考2: 同20巻コマ番号35/83に 現代版19巻4204番歌を確認

     古典籍 歌原本に漢字「
」を確認。

     (現代版は漢字【
】)
    

備考3: 万葉集Wikisource、万葉集ナビなどの原文は


    京都大学貴重資料デジタルアーカイブ 万葉集20巻800/892には

    別の異体字(
の縦棒が人)が使われています。



・・・はい?・・・受け入れがたいほど退屈で我慢の限界に・・・

ご安心ください。 こちらが結論へのリンクです


・・・え? ほかにすることはないのか? ・・・はい。

・・・え? 調べた内容に価値があるのか?

・・・はい!万葉集(現存する日本最古の和歌集)に簡体字(盖)と繁体字

(蓋)が混在している点が謎めいてワクワクしませんか?

・・・さっさと話せ? はい! では、話を進めさせてください。



(ふた/かさ/けだし)」

蓋の俗字(ぞくじ)とされる「盖」について。

万葉集 原文で使われている【
】の巻別 使用頻度を書かせてください。

(2024年2月8日13時 万葉集Wikisourceをctrl+F操作で「盖」を検索。)


数値は「歌 原文」を対象。古典籍との比較はしていません。


0回   1巻 5巻 6巻 8巻 9巻 10巻 13巻 14巻 15巻 16巻

     17巻 18巻 20巻

1回   7巻 11巻 12巻 19巻

2回   4巻

3回   2巻 3巻


この数値は詞書(ことばがき)を含みません。

詞書を含む場合は、5巻では数値が0回から70回へ変わります。

(なお、5巻以外の巻では詞書を含んでも6回以下。)


5巻の詞書(ことばがき)の内容

上のカウントに現れていない「詞書に使われた盖」の具体例を書きます。


① 
聞(けだしくも)= もしかしたら       6回

② 松掛羅而傾
 = ゆるく垂れて覆い隠す    32回

③ 於是
天坐地 = こうして空も地も覆われる  32回


①+②+③ で 合計70回に。①は同日に詠まれた6首の詞書。②と③は

繰り返して登場する同一の詞書(①とは別)の中で使われています。


当サイト地元(福岡県)との関連

ここまでの話をまとめます。「蓋」(ふた・がい)は2024年現在、日本の

常用漢字。「万葉集」原文(パソコンで活字化された状態)に、ざっと数え

て6回登場。一方で異体字の「盖」(ふた・がい)は詞書を入れると はるか

に使用頻度が高い。こちらは2024年現在、俗字。常用漢字ではありません。

(なお、各漢字の数値はサイト管理者が数え間違えている可能性も。その

場合はご容赦ください。)


万葉集は奈良時代後期から平安時代初期の あいだ に作られたと推定され、

*759年‐780年頃が有力と考えられるのだとか。編纂(へんさん)に関わっ

た人物は大伴家持(おおとものやかもち)など複数・・・

大伴家持(おおとものやかもち)の作品は万葉集に473首で全体の一割以上。

彼は九州とも関係が深い・・・


当サイトの地元(福岡県)にまつわる作品 (万葉集5巻 800番・801番)は、

古代日本の山岳信仰に関連。すでに述べた通り古典籍(清水浜臣 写本)で

詞書の存在などが確認できませんでしたが、現代版ではこの2首の詞書に漢字

の「蓋」(くさかんむり+去+皿)が使われています。


詞書 (原文)に「蓋」が登場するのは全作品中で、この2首(5巻の2回)のみ。

・・・数値が正確であれば、とても珍しいような。何か意味があるのかな・・・


(*カウント最終確認:2月12日19時30分 参照:万葉集Wikisource)

(万葉集の年代について:参考 ウィキペディア)


conclusion :

結 論

わかったことは三つです。


1 万葉集には「蓋」と異体字の「盖」が使われている。

「盖」(羊+皿)と「蓋」(くさかんむり+去+皿)は意味と発音が同じ。


2 万葉集が作られた頃は「盖」(羊+皿)が多く用いられている。

  清水浜臣(1776-1824:江戸時代の人物)は原文には「盖」を、注釈で

  は「蓋」を用いている。


3 「蓋」は繁体中国語(繁体字)に、「盖」は簡体中国語(簡体字)に由来

   する。「蓋」には複数の異体字・俗字(誤字が一般化してしまった文字)

   がある。盖は蓋の俗字の一つである。


2首の歌

最後に「蓋」の異体字・俗字「盖」を名詞に使った2首を。


(3巻240歌)  

原 文: 久堅乃 天歸月乎 網尓刺 我大王者
尓為有

仮 名: ひさかたの あめゆくつきを あみにさし わがおほきみは きぬがさにせり

試 訳: 空を行く月を網(あみ)に刺して われらの大君は きぬがさのように

     地をおおう天蓋(てんがい)となさっている。  (試訳:当サイト)


歌の背景

天武天皇の子である長皇子(ながのみこ)が狩りを楽しんだ際に(警護役をし

たと思われる)人麻呂が長歌(ちょうか)の まとめとして詠んだ歌(=反歌) 。

長歌の大意は「動物も鳥も日の神の御子である大君(おおきみ)の霊威(れいい)

をうやまい、這(は)って崇(あが)める」という大君讃美(おおきみ さんび)。


この歌について:清水浜臣(しみずはまおみ)の注釈


古典籍 万葉集 清水浜臣 写、3巻コマ番号 5-6/131 の注釈を抜粋。

現代語に改めて要約します。


1. 周礼に「為蓋象天」とある。

(意味:中国の周礼という書物に「天は蓋(ふた/かさ)の形を成す」とある。)

2. 晋書に「天圓(円)如倚蓋」とある。

(意味:中国の晋書という書物に「天空は蓋(ふた/かさ)に依存して形を成し

ている」とある。)

3. 歌の中の「網(あみ)」は「綱(つな)」の誤字で、月の左右を綱(つな)

でつなぎとめて(月を)傘(かさ)にして家来に引かせた。


などの注があります。(注の一部を抜粋し現代語に改めています。)

様々な空想が かきたてられるところです。


(19巻4204番歌)

最後は万葉集の編纂(へんさん)に関わったとされる大伴家持(おおともの

やかもち)を「わがせこ」と詠った作品。柿本人麻呂の作品ではありません。


原 文: 吾勢故我 捧而持流 保寶我之婆 安多可毛似加 青(?)

仮 名 : わがせこが ささげてもてる ほほがしは あたかもにるか あをききぬがさ

試 訳 :  あなたが捧げ持っていらっしゃるホオガシワは まるで地に垂れた

     蒼天(そうてん=大空)のようですね。 (試訳:当サイト)


19巻(4204番歌)について:清水浜臣の注釈

清水浜臣 写 古典籍 万葉集 20巻コマ番号35/83 より注釈を抜粋。

現代語に改めて要約します。


 儀制令(ぎせいりょう)に三位(さんみ)以上は蓋(かさ)を用いる。

一位(いちい)は深緑。ホオガシワの葉は幅広なので こう言ったのだろう。


歌と注釈の左に講師僧恵行(こうしそう えぎょう)の名があります。

越中国分寺(富山県:えっちゅうこくぶんじ 高野山真言宗の寺院)に関連

する僧侶*だとか。日本という国の仕組みが整った時代に、宗教の仕組みも

整えられていったのでしょう。恵行は*真言宗の基本となった中国密教(唐密:

とうみつ)の教義に詳しい立場の僧侶では・・・と想像します。

(*真言宗:日本の仏教の宗派の一つ。開祖は空海。空海は中国の長安で中国密教

=唐密 / とうみつを学び、その教義を基盤に平安時代に真言宗を確立。)


歌の*ホオガシワはモクレン科の落葉高木でホオノキ。日本自生の樹木では最大級

の葉と花を持つ植物。「ホオ」は大きな葉で食物を「包」んだことに由来するそう

です。    (*講師僧 恵行 *ホオガシワ:参照 ウィキペディア)


退屈な午後には空想を。しかし「春物語」4話 の空想はここまでに。

日本の律令が整えられた天武・持統朝から奈良時代へ幻想を広げてみました。


      つづく   藤原宮の謎へ


ご訪問をありがとうございました。


追伸:誤認やミス、引用先の不記載などがあると思います。お気づきの場合は

ご容赦の上、お差し支えなければサイト管理者へご教示いただけますと幸いです。

平素のご教示とご協力に感謝申し上げつつ。


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