香春の伝説を追う試み (中 編)
秘書のファイリングかばん
**★☆***:*★☆***:*★☆**
鹿春神(かはるしん)
前編の続きです。
10分間の休憩が終わり、参加者 8名 が着席しています。
司会: では、先ほどの続きを再開します。会話を はじめてください。
志賀島(しかのしま)・ 金印
A: 江戸時代に金印が発見された志賀島について、質問させてください。
志賀島(しかのしま)には、鹿の角(つの)が奉納されている鹿角堂(ろっかく
どう)があるでしょう?なぜ、志賀島に鹿の角(つの)が奉納されているのか気
になっているの。
D: 志賀島といえば「筑紫斯香神(つくし しかのかみ)」という文字を、志賀海
神社(しかうみじんじゃ)を調べたとき見たぞ。
A: ええ、その神社の境内だわ。角(つの)が奉納されているのは。
C: 「斯香(しか)」「鹿(しか)」「志賀(しか)」ね。香春神社(かわらじんじゃ)
の石段の下の石碑にも「鹿春(かはる)」と鹿の漢字があったわ。
ツヌガアラシト
D: 朝鮮半島から「斯香(しか)」の「斯(し)」の文字を持つ王子が日本へ
来た伝承があるよ。長い名前で*ツヌガアラシト。漢字で「*都怒我阿羅斯等」。
額(ひたい)にツノがあり、別名を ウシキアリシチカンキ(于斯岐阿利叱智干岐)。
彼は加羅(から)の王子と伝承されているよ。
A: 加羅(から)・・・ええと、百済(くだら)と新羅(しらぎ)のあいだの
土地で、さっき話に出た場所よね・・・朝鮮半島南部ね。
D: そう。
A: ツヌガアラシト・・「つのがあるひと」と覚えようっと・・ウシ・・キ・・
アリ・・シチ・・カン・・キ・・?
D: 長い名前だね。
A: ええ。本当に。いつ日本へ来たの?
D: 第10代天皇のとき。息長足姫(おきながたらしひめ)の夫(第14代天皇)
の4代前。
A: ええっと、加羅(から)は1世紀頃からある国ね。福岡にも来たのかしら?
D: 福岡への言及は・・・ないね。最終的な上陸地は越(こし)。北陸の福井県。
角鹿(つぬが:福井県敦賀/つるが)という土地は、彼の名前が起源のようだ。
彼は第11代天皇の時代に加羅に帰ったらしい。そのときに第11代天皇は先代の天皇
(第10代)の名前にちなんで、加羅の土地名を任那(ミマナ)とするよう促したと
いう伝承がある。
旅程については、ウィキペディア(項目:都怒我阿羅斯等)に、今の山口、
島根を経て福井県敦賀市に上陸とある。日本海側を船で東へ行ったようだね。
A: 待って。ミマナはいつできたの?
D: 不明。4世紀頃とする説もあるようだが、第11代天皇(垂仁天皇)を
紀元前50年頃から西暦元年頃の天皇とする説もある。
A: 加羅にミマナがいつできたのか、それがわかれば、加羅(から)の王子や
第11代天皇について、もっと良くわかるかもしれないわね・・・
加羅(から)の王子と志賀海神社の鹿の角との関係は、わからないけれど。
D: 同じ漢字が一文字、たまたまあるだけなのかな。
( *ツヌガアラシト * 任那(みまな)の伝承: 日本書紀 垂仁天皇 )
アメノヒボコ
D: 加羅(から)からツヌガアラシトが来た頃に、新羅(しんら)からも王子が
来た伝説があるね。
B: うん。*アメノヒボコ (天日槍)だね。彼は今の兵庫のあたりと関係が深い
ようだ。日本へ来たのは第11代天皇のときで、ツヌガアラシトより少し後(あと)。
アメノヒボコは西日本を旅して北部九州にも立ち寄っている。彼は第11代天皇
に貴重な品を数種類献上したらしい。
A: どんな品?
B: 熊神籬(くまのひもろぎ)。これは神の依(よ)り代(しろ)らしい。
あとは赤い玉など3種類の玉に、鏡1枚など。
( *アメノヒボコ: 日本書紀 垂仁天皇 )
美女伝説
E: 加羅の王子(ツヌガアラシト)と新羅の王子(アメノヒボコ)には、似た
失恋の*話があるね。
B: ああ・・・あるね。美しい石の玉から生まれた美女が日本へと逃げ去ったの
で、美女を追って日本へ来たという伝説が二人に共通している。
福岡県に近いところでは、豊国(とよくに)の姫島に女神として祀られているのが、
その美女みたいだ。今の大分県姫島の比売語曾社(ひめこ そしゃ/ 比売碁曾社)。
ご祭神の名前は、あかるひめのかみ(阿加流比売神)。九州は朝鮮半島に近いので、
さらに遠くへと逃げて近畿へ行った*伝承もある。
(* 日本書紀:垂仁天皇記 古事記:応神天皇記) (*摂国風土記 逸文 )
比売碁/語 曾社(ひめこそ しゃ)・アカルヒメノカミ
A: アカ・・ル・・ヒメノカミ。こちらも長い名前ね。ええっと、私たちが
いる福岡県は九州北部。海をはさんで山口県があるわ。瀬戸内海を広島・・
岡山・・兵庫と進むと大阪に着くわ。アメノヒボコと関係が深い兵庫は大阪の
となりね。そして女神が逃げていった難波(なにわ)は大阪にあるのね。
B: うん。
A: ツヌガアラシトは、反対側の日本海を、山口・・島根・・鳥取・・兵庫・・
京都、と過ぎて福井へ上陸。福井は京都、大阪、兵庫に近いわね。・・・なぜ、
本州の外側の日本海を通ったのかしら。
B: 危険回避じゃないか?盗賊におそわれても外海に逃げられるように。
ほかにも、何か理由があるんだろうね。良くわからないが・・・
比売語曾社(ひめこそしゃ)
B: 美女の話に戻るよ。玉から生まれた美女はアカルヒメノカミという女神で、
難波(なにわ)と豊国(とよくに)にまつられたようだ。豊国(とよくに)の
国前(くにさき)の *比売語曾社(ひめこそしゃ)。
(* 古事記: 比売碁 日本書紀: 比売語 )
A: ひめ・こ・そしゃ? 曾社(そしゃ)って、なにかしら?
B: 前身(ぜんしん)や祖先となる社(やしろ)かな。 この女神について、
豊前国風土記 逸文(ぶぜんこくふどき いつぶん)に「新羅国の神が来て河原
(かはる)に住んだ」「鹿春神(かはるしん)という」とあるようだ。
古宮八幡神社(こみやはちまんじんじゃ)
E: その話の補足となるかわからないが、それらしい神社があるぞ。香春駅の
隣に採銅所(さいどうしょ)という駅がある。駅から200メートルほど離れた
場所に古宮八幡神社(こみやはちまんじんじゃ)があって、香春神社の元宮
(もとみや)らしい。そこは豊比売命神社(とよひめのみことじんじゃ)の
本社となっている。
この神社に、さらに元宮があって、それが香春岳の三の岳のふもとの阿曽隈社
(あそくましゃ)。
阿曽隈社(あそくましゃ)
C: 採銅所駅(さいどうしょえき)は、日田彦山線で香春駅(かわらえき)の隣ね。
E: そうだね。阿曽隈社(あそくましゃ)は、採銅所駅から約2キロほど香春駅
寄り。建立は渡来系の日置絢子(読み不明)。ご祭神は阿曽隈(あそくま)。
阿曽隈(あそくま)は、*渡来系の 日置絢子(読み不明)が 豊比咩命(とよひめ
のみこと)をまつったのが始まりだと書いてあるが・・・
(*参照:産土神名帳 / うぶすなじんみょうちょう)
A: 阿曽隈(あそくま)? アカルヒメノカミ(阿加流比売神)の阿(あ)
と 「曾(曽)社 / 祖先・前身)」の曽(そ)・・・隈(くま)?
隈(くま)は何の意味?
D: 片田舎(かたいなか)、辺鄙(へんぴ)な山里の場所など。
A: 人が来ないような奥まった場所のことね。
元宮の豊比咩(とよひめ)
C: 香春神社の三柱のご祭神のうち、豊比賣命(とよひめのみこと)が阿曽隈社
(あそくましゃ)のご祭神ね。この女神がアカルヒメ?・・・あら?元宮は
豊 比 咩(とよひめ)で、香春神社は 豊 比 賣(とよひめ)。・・・「め」の漢字
が違うわ。
D: 元宮で使われている「 咩 (め)」は羊の鳴き声を表す漢字だが、なぜ、
この文字なのかな。魏志倭人伝(ぎしわじんでん)の和訳・解説に、昔の日本には
牛、馬、羊などはいないと書いてあったが・・・
C: 羊(ひつじ)は中近東やモンゴルなどが原産地で、確かに昔の日本には いな
いはずね。
A: その名前の女性が、新羅で美しい石から生まれて、アメノヒボコが恋に落ちて
妻にしたけれど、親がいる日本へ去ってしまった謎の女神? 謎に満ちていて震えて
しまうわ!
日像鏡(ひがたのかがみ)・日矛鏡(ひぼこのかがみ)
B: ブレーンストーミングで、「香春」という漢字を分けると「秦・日・日」
となって「日」が二つという話題が出たね。関係があるのかどうか、まったく
わからないけれど、「日」が二つ登場する伝承を見つけた。
日本神話の岩戸隠(いわどがく)れの場面でアマテラスオオミカミ(天照大神)
を洞窟から誘い出す小道具に八咫鏡(やたのかがみ)が使われるね。じつは、
八咫鏡(やたのかがみ)の前に、練習として造られた鏡が二枚あるらしい。
それが日像鏡(ひがたのかがみ)と日矛鏡(ひぼこのかがみ)。日矛(ひぼこ)
は鏡ではなく矛(ほこ)という説もある。一応、ここでは鏡とするね。
鍛冶師(かじし)
B: その説では、*ひとりの女神を鍛冶(かじ)の責任者とし、天香山(あめの
かぐやま)の金(かね)を採鉱し、日矛鏡(ひぼこのかがみ)を造らせた。
また、鹿の革で「ふいご」という燃焼を促進する道具を作り、それを利用して
日像鏡(ひがたのかがみ)を造ったことになっている。
天津麻羅(あまつ まら)
B: 鍛冶を担当した男女の名前は、男は(あまつ まら / *天津麻羅)。名前の
「まら(麻羅)」は鍛冶工が鉄の色を観察するため片目を閉じる「目占(めうら)」
がなまったという説と、男の鍛冶師の集団という説がある。麻羅は、玉から生ま
れた父親を持つ「あめの まひとつの かみ( 天目一箇神/ *天目一命)」と同一神ら
しいよ。男の鍛冶工については そのくらいかな。
(*天津麻羅:古事記)(*天目一命:播磨国風土記/はりまこくふどき)
ご祭神・目
C: 香春神社のご祭神の「辛国 息長大姫 大自命/大目命」の、おきながおおひめ
(息長大姫) は誰かしら?
B: 息長 氏(おきなが うじ)は天津麻羅(アマツマラ)の子孫らしい。古事記に、
鍛冶・製鉄の神の子孫にあたる 息長 水依比賣 (おきながの みずより ひめ )の
名前がある。気長足姫(おきながたらしひめ)の父(息長宿禰/おきなが のすくね)
も同族らしいよ。
C: 息長大姫(おきながおおひめ)は 鍛冶の神様の一族ということ?
B: 話の流れでは、そうなるね。
C: 鍛冶(かじ)の神様の一族?・・・意外。香春神社の由緒書(ゆいしょがき)
の女神は具体的に何をしに渡航したのかしら。・・・謎ね。
伊斯許理度売命(いしこりどめのみこと/ 石凝姥命 )
B: 一の岳の女神は、ひとまず保留にしようか。
神話に出てくる天香山(あめのかぐやま)の鏡造りの女神に移るよ。名前は
*いしこりどめのみこと (伊斯許理度売命)。日本の初代天皇(神武天皇)の
曾祖父(ニニギノミコト)の従者の一人。鍛冶責任者は、この女神だったようだ。
A: ・・・気長足姫(おきながたらしひめ)の夫(第14代天皇)の遠い先祖の
従者? ええっと・・・16世代ぐらい前の・・・?
B: そうなるかな。
C: 三の岳のご祭神が、初代天皇(神武天皇)の外祖母だとすると、どういう
関係になるかしら?
B: 僕は、そこが良くわからない。ネット情報では、初代天皇の母は玉依姫
(たまよりひめ)だ。だが、玉依姫の系譜には父(海神/ わたつみのかみ)しか
書かれていないぞ・・・母親はいるのか?
E: 玉依姫(たまよりひめ)は万幡姫(よろづはたひめ)の娘という*説がある
よ。天忍骨命(あまのおしほね)の妻が万幡姫(よろづはたひめ)らしい。
*( 日本書紀 第九段一書 七 )
C: 香春岳の二の岳のご祭神は忍骨命(おしほね)で、三の岳のご祭神が妻?
一の岳は誰かしら。気長足姫(おきながたらしひめ)という説もあるようだけ
れど、由緒書(第10代天皇のときに朝鮮半島へ行った)と一致しないわ。気長
足姫は14代天皇の后(きさき)で、10代天皇と4世代のへだたりがあるもの。
E: 三の岳の女神が万幡姫(よろづはたひめ)で、さらに由緒書のとおりだと
すると、娘(玉依姫)の父は海神(わたつみのかみ)で忍骨命ではない。また、
住吉神(すみよしのかみ:水底に沈む三人の男神)の母だと由緒書は言うが、
住吉神の父は伊弉諾尊(いざなぎのみこと)だと系譜にある。夫は三人になる。
おまけに、住吉神は、伊弉諾尊(いざなぎのみこと)が川で水浴をしたときに
母もなく水から生まれている。
由緒書を信じると、三の岳の女神は かなり特殊だ。だから、三の岳の女神に
ついての由緒書は保留にしない? ひとまず、二の岳の妻と単純に仮定してみな
いか?
B: あぁ、それがいいな。
ACD: うん。
天香山(あまのかぐやま / あめのかぐやま)
A: あの、話は代わるけれど、香春岳(かわらだけ)は神話の天香山(あまの
かぐやま)と似ているのね。
鏡を造るために鹿の革でふいごを作ったと神話にあるでしょ。香春岳は鏡を作る
銅が採れるし、万葉集の歌の中で地名の香春に「革流/かはる」と革(なめした
皮)の漢字を使っているわ。神社の石碑に「 鹿 春 」と「鹿」の文字もあるわ。
B: 「天香山(あまのかぐやま )」は奈良県と考えられているけれど、香春岳
は神話の山と似ていると考える人もいるようだよ。
A: 万葉集の歌では香春を「加波流(かはる)」とも書いているわ。
アカルヒメノカミ(阿加流比売神)の名前の「加 流(か る)」と同じ文字だわ。
謎めいていて素敵ね。それに、アメノヒボコが献上した熊神籬(くまのひもろぎ)
の「くま」の音が付く古い神社があって、*古宮八幡神社 は 新羅の女神 の 本社 よ。
*(参照: 産土神名帳 / うぶすなじんみょうちょう)
丑(うし)伝説 ・ 鏡
E: こちらにも面白い伝説があった。鏡にまつわる中国の女性の話。
黄帝 /(こうてい)の二番目の妃が石板鏡を発明したそうだ。黄帝は中国の夏・殷・
周・秦などのすべての王朝の先祖で、紀元前2500年頃の(伝説上の)人物。
石板鏡を発明した女性の別称は丑女(うしおんな)。女媧(じょか)の氏族とされる
らしい。女媧(じょか)は古代中国に登場する人類を創造した女神で蛇女神、または
龍女神。
A: ウシと関係があるの?ツヌガアラシトと?
E: さあ。わからないが、SF物語の素材には良いだろう?
休 憩
司会: 休憩時間です。10分間休憩しましょう。
お疲れさまでした。
つづく ( 香春の伝説を追う試み 後編へ )
まとめ
後編に続きます。
ご訪問をありがとうございました。
*************
追伸:誤認やミス、引用先の不記載などがあると思います。お気づきの場合は
ご容赦の上、お差し支えなければサイト管理者へご教示いただけますと幸いです。
平素のご教示とご協力に感謝申し上げつつ。
工房くらし月
トップ頁
copyright notice: all rights reserved by Toki Museum
Copyright: 時間の博物館 since 2001
バナースペース
shop info店舗情報
事務局:工房くらし月
福岡県福岡市